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日付:

2006/05/21

タイトル:
百歳、エージシューターへの道
著者:

内田収三

出版社:

(株)エムビーシ−21

書評:
 

 「百歳にしてグリーンに立つ」 そう公言して憚らなかった内田さんだが、九十九里の波の音を聞きながら、九十九歳の生涯を閉じた。ダンディで当意即妙、しかもジョークの達人であった。しかし、だからと言って末期に及び「一事慣行」の精神を茶化したとも思われない。単なる語呂合わせではなく、したたかなメッセージが秘められている筈である。内田さんが直情径行の人で、自己完結型の雲上劇を良しとしたのであれば、恐らく天寿百歳は全うしたであろう。あと一年というとき、爽やかな五月の葉群をそよがせ、舞台の袖に降りてしまった。これは些か奇妙なことではないだろうか。もう誰もが傍観者でいられない。百歳の夢が、私たち一人ひとりの現実の問題となつて、ずしりと手渡されたのだから。この意味深長な減命こそ、実は、菩薩行の奥の手と称されるものである。釈迦の掌に揉み潰された蓮の花を見て、迦葉はニッコリ笑って得度した。そんな故事に擬えることも出来るだろう。何はともあれ、58歳からスタートした内田さんの破天荒なゴルフ人生、その健康行脚が織りなすネットワークは、そのまま貴重な文化遺産となっている。

 伊豆は長岡の出身、房総の中核都市・茂原を終生の地と定め、当時、隆盛を極めた養蚕業に従事して財をなす。持ち前の変幻自在な早業で、信用組合理事、市の助役などに就任、余人の及ばぬ活力を発揮して、明治・大正・昭和・平成の花道を闊歩した。運命の出会いと言えば、真名カントリー倶楽部の創設者で、エアロビクスセンター所長の川戸雅貴氏の名が先ず思い浮かぶ。この真名カントリー倶楽部を舞台に‘89年にギネスブック入りした一日126ホール・ゴルフ・ラウンド達成によって伝説の人となった。この前代未聞の体験談を引提げて日本列島を講演旅行、タレント顔負けの人気を博するも、敢て素人主義に徹してボランテイア活動に終始。地元・生命の森リゾートではご本尊と仰がれ、健康宣言都市・茂原のヒーローとして、圧倒的な支持を集めた。健康産業の推進を軸に、三面六臂の活躍ぶりは郷土の誇りである。ちなみに房総の生き字引とまで言われた内田さんの全日記、書架一体には納まりきらないのではないか。一日たりとも筆を疎かにしなかった、その健全なリゴリズムには脱帽せざるを得ない。

  隠れたベストセラーとして、息の長い本書である。バブル後の町おこしの火種が消えた今も、その価値に変わりはない。故人の設立による「公益信託内田健康長寿者顕彰基金」が、いまはどうなっているのか気になるところだが、この奇特な一人一党主義が、もし、一背馳に塗れたとなれば、行政の怠慢というほかはない。


 

 

 


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