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・おしゃべりな本棚


著:中村 卓
出版社:文芸社
タイトル:

[新版] ゲーデル

著者:

竹内外史

出版社:
日本評論社
書評:

 本書は硬軟交えた盛り沢山の数学四方山話で興味津々なのだが、パラパラ拾い読みしながら楽しめるかというとそうでもなく、笊で水を掬うような有様となり、改めてページを辿り直して目を通し終えたあとも本筋がどうなのかは無論のこと、エピソードの片鱗すら残らない。不思議の国のアリスになったような奇妙な戸惑いを覚える。

 一体全体、数学の世界に正解はあり得ないなどと、誰が信じられるだろう。数学者の頭数だけ解答があるなら、まさしく現実の泥沼を這いずり回るようなものである。一方で、「哲学はいかがわしい」という彼ら普遍言語の上層に位置するロジシャンたちにとっての共通観念があり、哲学は数学よりもむしろ魔術に近いものとなっている。あえて禁を犯してこの形而上学の森に迷い込み学会仲間に背を向けたのがゲーデルであった。排中律に根拠があるとすればむやみに戸を叩けばよいというものではないということか。

 確かに天地創造の日に混沌は神の手にあった。そして、優先順位によってか、競争原理によってか、はいざ知らず、ものが集まるところから秩序が生まれた。混沌は同義反復からはみ出したアウトローの世界である。一体ここで何が起こったのか?要するに何でもよい、何かが起こらなければ数学はない。起こりうるか否かの自問自答に哲学の壁があるわけだが、この問いに翼を与えられた日のことは、ゲーデルに最も近しい著者の回想の中にさえ読み取ることは難しそうだ。新しい契約は無限の前に布陣している。翼と引き換えに足を奪われた人間が孤立無援となるのはよくあることではないか。

 母への幾通かの手紙の中に、公教要理の奥深く厳しい実行精神をみるのだが、背信性が微塵も感じられない人間味溢れる態度言明にも拘わらず、彼の神は教会を好まない。何者かに成るという終生やみがたい欲求こそ神なのであって(スピノザを見よ!)、予定調和的な来世願望が数式化されて信仰の糧となるなら、やはり異端の烙印を捺されても仕方がないのかも知れない。晩年の彼は神の存在証明を世に問うことでセンセーションを捲き起こしたのだが、神の存在形式がこの世にあり、信じること以上に理解し得るものだとしても、神の存在と神の存在を証明することとは別のことのように思われる。

 今でこそ、麻酔薬と合成樹脂製品のない世の中は考えられないが、文明以前とは比較にならない今世紀のクオリティの高さを思えば、存在ではなく存在の仕方が人間らしさの証明であることを知る。何はともあれ、温和で誠実な一数学者が<文明=文化>の理想的な人間社会を夢見て研究室に閉じこもり、その<美しいフォーム>を模索する姿には改めて感動を呼び覚まされずにはいない。

 

 


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